惜しまれつつも2020年2月14日で閉店。DINNER by Heston Blumenthalで特別な夜
世界中からの移民が集まるメルボルンは食の宝庫。
メルボルンといえばカフェ文化が注目されがちだけど、普段使いしたい世界各国の料理が楽しめる店に加えて、ワールドベストレストランの一つに選ばれるような、ちょっと特別な時に行きたいレストランもあって幅広い。
2015年に営業を開始して以来、バレンタインデーや記念日、誕生日なんかのお祝いに使いたい素敵なレストランとして話題に上がってきたDINNER by Heston Blumenthalだが、新年早々「どうやら店じまいするらしい」なんて噂が流れてきた。
火のない所に煙は立たない。
結局噂は本当になって、最終営業日は2020年2月14日とアナウンスされた。
分子ガストロミーに則った調理法で提供される料理は他のレストランとはまた違った楽しみがあったので残念だけど、この機会にDINNER by Heston Blumnthalについて残しておきたい。
- 分子ガストロミー(分子美食学)って?
分子ガストロミーとは「調理を物理学的、科学的に解析した科学的学問分野」(Wikipedia)・・・だそうだ。
って言われてもピンとこないけど、
・青物を茹でるときは湯に塩を入れる
・チョコレートと水は合わせると分離する
などといった、「これまでの料理における常識にとらわれず科学的な根拠に基づいて料理を分析、解明する学問」と聞くとなんとなく腑に落ちる。
これまで長年伝えられてきた料理に関する迷信などを明らかにし、液体窒素や遠心分離機なども用いながら斬新な料理を生み出す。
調理というよりは科学の実験のようなものをイメージしたくなるけれど、それがどうやら分子ガストロミーというものらしい。
分子ガストロミーによると、
・青物を茹でるときは湯に塩を入れる
→塩を入れなくても効果は同じ
・チョコレートと水は合わせると分離する
→正しい割合であればチョコと水でムースができる
なんだそう。
いつも塩を入れて茹でてたし、チョコレートを使うときは一滴でも水が入らないように神経を使っていた私には目から鱗だった。
- ヘストン・ブルメンタール
そんな分子ガストロミーを代表する三大シェフの一人がヘストン・ブルメンタール。
彼がオーナーシェフを務めるイギリスの「The Fat Duck ファット・ダック」はミシュラン三ツ星を獲得している。
ヘストンは世界に名だたるシェフとして活躍するだけでなく、英国王立化学会の特別研究員などの名誉職についたり大英帝国勲章も授与されたちょっとした有名人。
2012年にロンドンにオープンした「DINNER by Heston Blumenthal」は世界のベストレストランで第9位にランクイン。
その2号店が2015年、メルボルンにオープンした。
DINNER by Heston Blumenthal
DINNERはサウスバンク・クラウンホテルにある。
シンプルだけれど存在感のあるエントランスからは薄暗い通路が続いている。
通路を抜けて店内へ入っていくとまず通されたのはバーカウンター。
目の前には客席が広がる大きな空間とその奥にはヤラ川の対岸の景色が見える特等席。
左手にはガラス越しにDINNERのシェフたちが働くキッチンが見える。
しばらくしてバーカウンターから案内されたテーブルは夜景を一望できるソファ席。
川沿いの炎のパフォーマンスをガラス越しに見ることができる良い席だった。
- 料理
食事はコースではなく、気になるものをそれぞれ頼めるようになっている。
The Frumenty
ここでのキーワードは「Emulsion(乳剤・乳濁液)」。
グリルされた蛸、スペルト小麦、レッドモス、それにlovage emulsion(ラベージはセロリに似たハーブ)とスモークされた和食の出汁のような魚介のスープ。
エントリーにぴったりの一皿。
The Frumenty (c. 1390)
Venison and Bottled Cherries
スモークされたビーツにグリルされた赤キャベツ、チェリーのピクルスと鹿肉のプレート。
赤紫色で統一されてインパクト大。
鹿肉は完璧な火の通り具合で中はレアで柔らかくて食べやすくいし、それぞれの食材と食べるとまた違った味を楽しめた。
Black Angus Rib Eye
リブアイステーキは28日間のドライエイジングさせたブラックアンガス牛のもの。
木と炭の残り火を使って焼き上げられているそうだ。
調理法なのか肉自体のものなのかはわからないが、柔らかくジューシーで噛む度に肉の味が広がって、正直こんなに美味しい熟成肉を食べたのは初めて。
サシが入った鮮やかな色の和牛とはまた違うけれど、決して負けてない、熟成肉がブームになっているのがわかる一皿。
Triple Cooked Chips
そして忘れてはいけないのがステーキのサイドとして出てきたフライドポテト。
サイドディッシュとは言わせない、それくらい美味しいポテトだった。
ヘストンと言えばこれと言っても過言じゃないTriple Cooked Chips。
たかがフライドポテト、されどフライドポテト。
名前の通り3つのプロセスを経て調理される。
1.茹でて冷やして凍らせる
2.低温で揚げる
3.高温で揚げる
このひと手間でフライドポテトがこんなに美味しくなるなんて。
このポテトを食べたら分子ガストロミーのすごさに驚くはず。
Eggs in Verjuice
1726年に出版されたイースターエッグのレシピにインスピレーションを受けて作られたこのデザート。
殻はホワイトチョコレートとレモンタイムで作られたとは思えないくらい表面の柄がリアル。
蜂蜜とシトラス風味のカタフィーで巣を再現、ビターウォッカチョコレートスティックやキューブ状の柚子ゼリー、オレンジのコンフィが周りに散りばめられていた。
殻の中も卵が再現されていて、白身はココナッツパンナコッタ、とろとろの黄身はマンダリンとタイム、そしてヴェルジュを使っている。
ヴェルジュ(Verjuie)は未熟なブドウを絞ったジュースで酸味があるのが特徴だそう。さっぱりした黄身とまろやかなパンナコッタの相性は抜群。
そしてその下にあるのがコーヒーパルフェ。
アイスクリームによく似た濃厚なパルフェは他の味をかき消さないような軽めの香り。
目でも舌でもたくさん楽しめるおすすめデザート。
Earl Grey Chocolate Ganache
そして最後は、お会計をお願いしてからビルと一緒に運ばれてきたチョコレートムース。
ココアの香りの中に強すぎることも弱すぎることもないちょうどいい塩梅のアールグレイの香りが合わさって、甘さはほとんど感じないガナッシュの濃厚さが楽しめた。
コンプリメンタリーとは思えないクオリティで間違いなく、この日食べた中で一番美味しかったものの一つ。
横に添えられているのはキャラウェイ(ディルに似たスパイス)のビスケット。
キャラウェイとチョコレートがこんなに相性がいいなんて知らなかった。
- 最終営業日まであと3日
最終営業日は3日後のバレンタインデー。
意図してこの日になったのか、はたまた契約の関係上この日になったのかはわからないけど、バレンタインデーにと前もって予約をしていた人たちにとっても思い出に残る時間になるだろう。
最後に食べておきたいと駆け込み需要が高そうなので今から予約が取れるかわからないけれど、素敵なレストランだったのでぜひ有終の美を飾ってほしいと思う。
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